義足マラソンランナーからのメッセージ

アボット社員が聞く、常にポジティブにモチベーションを保つ方法

「人々があらゆるステージにおいて最高の人生を送ることができるようサポートする」というパーパスを体現する一手段として、アボットは2015年からワールドマラソンメジャーズとパートナーシップを締結しています。これは、アボット・ワールドマラソンメジャーズ各種プラットフォームを通じて、多様な背景とともにマラソンに挑戦するランナーを応援し、目標を乗り越える楽しさを共有することで、人々が人生のあらゆるステージにおいて最高の人生を送ることができるよう支援するものです。
また、アボットは、ランニングを通じて他の人々にインスピレーションを与えることにコミットし、健康上の課題を克服したランナーが多く所属するコミュニティ「チームアボット」を立ち上げています。2025年3月に開催された東京マラソン2025において、両足義足で完走を果たしたセドリック・キングさんもまた、「チームアボット」メンバーの一人。アボットのサポートで来日したセドリックさんに、常にポジティブな姿勢でいられるモチベーションの保ち方について、社員がインタビューを行いました。

セドリック・キング 氏
退役米陸軍曹長。2012年、34歳の時にアフガニスタン派遣中に即製爆発装置(IED)により内臓損傷、右腕と手の永久的な損傷、両足切断の重傷を負う。怪我からの復帰後トレーニングを積み、ニューヨークシティマラソン、ボストンマラソン、さらにアイアントライアスロンを完走。全米各地で講演会を実施するほか、著書に「The Making Point」がある。

写真は、東京マラソン2025をゴールした直後のセドリックさん(写真中央)とサポートガイドのお二人

※インタビュアー:アボットジャパン D&Iプロジェクト Yさん・Mさん

Mさん(以下、M):東京マラソン完走、おめでとうございます。セドリックさんはいろいろなシティマラソンを完走されていますが、東京マラソンならではと感じたことはありましたか?
セドリック・キングさん(以下、セドリック):それはもちろん!他のマラソンよりもいいタイムが出せる理由がいくつもあるよ。まず、完走者に贈られるランナーローブ!冗談抜きで一生着ていたいと思っているよ。あとは、完走メダルのストラップもひとつのアートかと思うほど美しい。観客もスタッフも温かくサポートしてくれて、ランナーとひとつのチームになっているようだったよ。一人一人が愛に溢れる、とにかく素晴らしい大会だった。

Yさん(以下、Y):セドリックさんがフルマラソンに挑戦しようと思ったきっかけは何だったのでしょうか?
セドリック:2度目のアフガニスタン派兵の時にIEDの爆発で負傷して昏睡状態になった。8日後に目が覚め、ベッドサイドにいた妻と母に「足がなくなってしまった」と言われた時、とにかく負傷したことで自分が変わることだけは嫌だ、と思った。「私は私である」ことを実践して、脚を失う前のように戻るにはどうしたらいいか、すごく考えた。それで、自分を保つためにトレーニングを始めたんだ。
初めはマラソンどころではなかったけれど、事故から9か月後に5kmランを始め、10マイル(約16km)、ハーフマラソンと距離を伸ばして、フルマラソンに挑戦するまで約1年のトレーニングを重ねた。結局、怪我をしたことで「Better version(より良いバージョン)」の自分になることができたと考えているよ。

Y:私は7歳の時に自動車事故に巻き込まれ、右腕を失いました。義手をつけた生活は1年ほどでしたが、メンテナンスの大変さを痛感しました。セドリックさんが生活の中でケアしていることがあれば教えてください
セドリック:私は、自転車用、ウォーキング用、ランニング用の3つの義足を使っている。義足はとても高価なのだけれど、私の場合は従軍中の怪我だったことから、国から義足を補助してもらっているんだ。定期的に義足の専門家を訪問し、メンテナンスをしてもらう必要がある。手間も時間も掛かるけれど、義足を使って運動をすることは、単に気分がいいというだけではなく自分を保つ目的のため。チャレンジしない自分は自分ではないし、鏡を見た時に「これが自分だ」と思えるために、チャレンジし続けられる自分を誇らしく思っているよ。

M:セドリックさんが日々の生活の中で困難に感じたこと、そしてその時に心掛け実践したことがあれば教えてください
セドリック:義足になった最初の頃は、大好きなピーナッツバターを冷蔵庫から出す、レンジで食べ物を温めるなど、今まで考えもせず簡単にやっていたこんなことがすごく難しくなった。足があった時はすごくシンプルだったのに、と思ったよ。でも、そう考えることは単なる失望でしかないから、自分の考えを変える必要があることを感じた。「物事をネガティブに捉えるのは簡単だけど、同時にポジティブに考えることも簡単なはず」と考えて、物事をそう選択をするように心がけたんだ。
東京マラソンの時も同じで、トイレに行きたくても長蛇の列だし、タイムリミットを達成できないランナーを回収するバスが迫ってくるし、困難な状況がいくつもあった。でも、絶対に出来ると信じて自分をプッシュし続けた。もちろん、今まで重ねてきたトレーニングが自分を支える根源になったけれど、それに加えてベストを尽くすことを忘れずにいれば自然とものごとがシンプルになっていく。まさにマラソンは人生そのものだよね。

M:最後に、障害を持ちながら日々努力されている方にメッセージをお願いします
セドリック:自分が持っているすべてを出し切ることが大事と考えている。
東京マラソンでは常に疲労がたまって関節が痛くなり、走っている途中で義足を取ってしまいたくなった。義足と接している部分はskin break(皮膚が裂けてしまうこと)が起こって出血することがあって、走っている間もそんな感覚だった。もうだめだ、やめたい、と思っても、ゴールを迎えることが足を止めることよりも大切だと考えて、信念を持って走り続けたんだ。特に最後の3マイル(約5km)は見えないゴールに向かう強さを持って「絶対にゴールする!」と考えて走り続けた。
ゴールして義足を取ってみたら、実はskin breakは起こっていなくて、オズの魔法使いのような感覚だったよ。知ってるかい?「怖い魔法使いだ」と思っていた仮面の後ろには普通の人間がいたってことさ。「メンタルを強く保って自分と戦い続けることが何より大切だよ」って伝えたいね。

 

――セドリックさんはインタビューを「どんなことをするにしても、心血を注げばベターな状態になると確信している」と結び、アボット社員とのインタビューにとても刺激を受けた、とコメントを寄せてくださいました。

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